前回の記事では、iDeCoとNISAの出口戦略を考えました。
出口戦略の最後に残った大物が、年金をいつからもらうかです。
私の年金見込みは65歳から年200万円弱。
繰上げれば60歳からもらえるけれど減額。
繰下げれば70歳からになるけれど増額。
よくある「損益分岐は12年後」という解説は知っていました。
でも、2026年6月に日銀が政策金利を1%に引き上げ、個人向け国債でも年1.8%前後の金利がつく時代になりました。
金利がつく時代の繰上げ・繰下げは、計算結果が変わるのではないか?
そう思って、金利を考慮した損益分岐を自分で計算してみました。
- 年金をいつからもらうか迷っている
- 繰上げ・繰下げの損益分岐を知りたい
- 金利上昇で判断がどう変わるのか気になる
という方の参考になればうれしいです。
前提条件
まずは私の状況です。
- 年齢:55歳(60歳退職を目指す)
- 年金見込み:65歳から年200万円弱(計算は200万円で)
- 独身(配偶者なし=加給年金は関係なし)
- 資産:約5,000万円(配当が年40万円)
計算をシンプルにするため、年金額は200万円、税金・社会保険料はいったん脇に置いて額面で計算します(税金の影響は後半で触れます)。
繰上げ・繰下げで年金額はいくら変わるか
制度のルールはシンプルです。
- 繰上げ:1ヶ月早めるごとに0.4%減額(最大60歳、▲24%)
- 繰下げ:1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額(最大75歳、+84%)
私の場合の受給額はこうなります。
60歳繰上げ:200万円 × 76% = 年152万円
65歳(通常):年200万円
70歳繰下げ:200万円 × 142% = 年284万円
ちなみに75歳まで繰下げると年368万円です。
👉 60歳と70歳では、同じ年金が年132万円も違う。
だからこそ「いつもらうか」は出口戦略の最重要テーマです。
まずは金利ゼロで損益分岐を計算してみる
教科書どおり、累計受給額で損益分岐を計算します。
60歳繰上げ vs 65歳受給
- 80歳時点:繰上げ3,040万円、65歳受給3,000万円(繰上げがまだ勝ち)
- 85歳時点:繰上げ3,800万円、65歳受給4,000万円(逆転される)
損益分岐は80歳10ヶ月です。
👉 81歳より長生きするなら、繰上げは損。
65歳受給 vs 70歳繰下げ
- 85歳時点:65歳受給4,000万円、繰下げ4,260万円(繰下げの勝ち)
- 90歳時点:65歳受給5,000万円、繰下げ5,680万円(差が拡大)
損益分岐は81歳11ヶ月です。
👉 82歳より長生きするなら、繰下げが得。
ここまでは、よくある解説どおりの結果です。
金利1%時代の損益分岐はどう変わるか
ここからが本題です。
早くもらった年金は、使わなければ運用できます。
個人向け国債(変動10年)でも年1.8%程度の金利がつく時代です。
逆に繰下げ待機中は、その分の生活費を資産の取り崩しでまかなうことになります。
その資産が生んでいたはずの利息も、見えないコストです。
そこで、受け取った年金を年1%・2%で運用できる前提で、損益分岐を計算し直しました。
60歳繰上げ vs 65歳受給の分岐
- 金利0%:80歳10ヶ月
- 金利1%:約83歳
- 金利2%:約85歳
65歳受給 vs 70歳繰下げの分岐
- 金利0%:81歳11ヶ月
- 金利1%:約83歳
- 金利2%:約84歳半
👉 金利が2%つくと、損益分岐は3〜4年も後ろにずれる。
👉 金利上昇は、どちらの比較でも「早くもらう側」を有利にする。
これが今回いちばん確認したかったことでした。
低金利時代の「繰下げ一択」的な風潮は、金利のある世界では少し割り引いて考える必要がありそうです。
平均余命と重ねてみる
55歳の平均余命は、男性で約28年(83歳前後)、女性で約34年(89歳前後)です。
金利2%の世界では、
- 繰上げの分岐は約85歳 → 男性の平均余命より後ろ
- 繰下げの分岐は約84歳半 → 男性だと平均余命まで生きてほぼトントン
👉 数字だけ見ると、金利のある世界では繰下げの旨味は確実に減っている。
正直に言うと、この結果は計算する前の予想より大きな差でした。
計算に入れていない3つの重要ポイント
ただし、額面の計算だけで決めるのは危険です。
税金と社会保険料で分岐はさらに後ろへ
年金には公的年金等控除(65歳以上で110万円)がありますが、繰下げで年284万円になると、所得税・住民税・国民健康保険料・介護保険料の負担が増えます。
額面が42%増えても、手取りは42%増えない。
手取りベースで計算すると、繰下げの損益分岐はさらに1〜2年後ろにずれると言われています。
一方、繰上げで年152万円になると、非課税ラインに近づき、税・社会保険料の負担はかなり軽くなります。
年金は「保険」であり、運用商品ではない
ここまで損得で計算してきましたが、年金の本質は長生きリスクへの保険です。
- 何歳まで生きても、死ぬまでもらえる
- 物価スライドがあり、インフレにある程度追随する
固定金利の運用はインフレに負ける可能性がありますが、年金は終身・物価連動という、個人では買えない保険です。
👉 95歳まで生きたときに困らないのはどれか、という視点も必要。
ちなみに90歳まで生きた場合の累計は、繰上げ4,560万円、65歳受給5,000万円、繰下げ5,680万円。長生きするほど繰下げが圧勝します。
繰上げは取り消せない。繰下げは後から選べる
意外と知られていませんが、この2つは可逆性がまったく違います。
- 繰上げ:一度請求したら一生戻せない
- 繰下げ:65歳時点で決める必要はない。66歳以降、後から「増額でもらう」か「65歳までさかのぼって一括でもらう」かを選べる
👉 今すぐ決める必要があるのは「繰上げしない」ことだけ。繰下げは65歳を過ぎてから、健康状態と資産を見て決めればいい。
私の結論|65歳受給を基本に、繰下げは保留
計算してみて、私の方針はこう決めました。
基本は65歳受給。繰上げはしない。繰下げは65歳になってから考える。
理由は3つです。
1つ目。無年金期間(60〜65歳)の生活費は、以前のシミュレーションのとおり資産の取り崩しでまかなえる見込みだからです。繰上げで年金の単価を一生下げてまで、急いでもらう必要がありません。
2つ目。金利のある世界では、繰下げの分岐(約84歳半)は男性の平均余命とほぼ同じ。「増やすために我慢する」ほどの妙味はないと感じました。
3つ目。繰下げは後から選べるからです。65歳時点で資産が想定より残っていて、健康にも自信があれば、そのとき繰下げればいい。今決めるのは「繰上げしない」だけで十分です。
👉 資産に余裕を持つ意味は、年金を急いでもらわなくていい自由のためでもある。
よくある質問
Q1. 損益分岐の「12年」はどこから来ているのですか?
繰上げ・繰下げの減額率・増額率が、平均的な余命で受給総額がほぼ同じになるよう設計されているためです。開始年齢からおおむね12年前後で逆転します。ただしこれは金利ゼロ・額面ベースの話で、金利や税金を入れると分岐は動きます。
Q2. 繰上げが向いているのはどんな人ですか?
60〜65歳の生活費をまかなう資産がない人、健康に不安がある人です。生活のために働き続けるより、繰上げ受給で「選べる生活」を手に入れる方が合理的なケースはあります。逆に資産で乗り切れる人には、繰上げのメリットは小さいと思います。
Q3. 金利がもっと上がったらどうなりますか?
早くもらう側がさらに有利になります。仮に金利3%で計算すると、繰下げの損益分岐は80代後半になり、平均余命を超えてきます。逆に金利が下がれば繰下げ有利に戻ります。繰下げの判断を65歳まで保留しておけば、そのときの金利水準で決められるというのも、保留戦略の利点です。
まとめ|金利のある世界では「急いで増やさない」
今回の計算のまとめです。
- 年金200万円は、60歳繰上げで152万円、70歳繰下げで284万円
- 額面の損益分岐は、繰上げ81歳・繰下げ82歳
- 金利2%を考慮すると、分岐は85歳・84歳半まで後ろにずれる
- 金利上昇は「早くもらう側」を有利にする
- ただし年金は長生きへの保険。税・可逆性も含めて判断する
- 私の結論:65歳受給を基本に、繰上げはせず、繰下げは65歳時点で再判断
低金利時代の常識だった「繰下げ最強」は、金利1%の世界では絶対ではなくなりました。
感覚や風潮ではなく、自分の数字で計算してみてよかったと思います。
無年金期間の資産シミュレーションはこちらです。
→資産5000万円で60歳退職は可能?老後をシミュレーションしてみた
iDeCoとNISAの出口戦略はこちらにまとめています。


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