結論:退職金800万円・勤続30年の私の場合、iDeCoは退職金と同じ年(60歳)に一時金で受け取っても税額0円。最も損なのは65歳以降に年金形式でダラダラ受け取るケースで、税・社会保険料あわせて概算125万円の負担増になります。
前回の記事では、円安が退職計画に与える影響を整理しました。
今回は、もう少し手元の話です。
資産形成の柱として積み上げてきたiDeCoとNISA。
「いざ退職するとき、どう引き出すか」を考えたことがありますか。
実は、受け取り方を間違えると、数百万円単位で損をする可能性があります。
特に注意が必要なのは次の3点です。
- iDeCoを「一時金」で受け取るか「年金」で受け取るか迷っている方
- 会社の退職金とiDeCoを同じ年に受け取ろうとしている方
- NISAをどの順番で取り崩せばいいか分からない方
という方の参考になればうれしいです。
前提条件
- 年齢:55歳(60歳退職を想定)
- 退職前の年収:約500万円
- 勤続年数:30年
- 退職金:800万円
- iDeCo:45歳から月2万円を積み立て、60歳時点の評価額500万円と想定(元本360万円+運用益)
- 独身・愛知県在住
iDeCoの受け取り方は「一時金」が基本
退職所得控除という強力な武器
iDeCoを一時金で受け取ると、退職所得として扱われます。
退職所得には「退職所得控除」が使えます。
勤続年数30年の場合の控除額はこうなります。
800万円 + 70万円 × (30年 − 20年)= 1,500万円
👉 受取額が1,500万円以内であれば、税金はゼロになります。
さらに、控除を超えた金額も1/2だけが課税対象になるため、税負担は非常に小さくなります。
年金受け取りは合算に注意
iDeCoを「年金形式」で受け取った場合は、公的年金(老齢基礎・厚生年金)と合算されます。
65歳未満の場合、公的年金等控除は60万円。
老齢厚生年金と合わせると控除を超えやすく、所得税・住民税がかかってきます。
👉 収入が少ない退職直後に一時金で受け取るのが、多くの場合で有利です。
落とし穴:退職金とiDeCoを同じ年に受け取らない?
ここが最大の注意点です。
会社の退職金もiDeCoの一時金も、どちらも「退職所得」として扱われます。
同じ年に受け取ると、退職所得控除を合算して計算するため、控除の恩恵が薄れてしまいます。
👉 そこで「受け取る年をずらす」のが節税の定石とされています。
ただし、ずらす順番によって適用されるルールが違います。
- 退職金が先 → iDeCoが後: iDeCo受け取り年の「前年以前19年内」に退職金があると、控除が重複調整される(いわゆる20年ルール)
- iDeCoが先 → 退職金が後: 2025年までは5年空ければ両方フルに控除が使えた(いわゆる5年ルール)
【施行済み】2026年1月から「10年ルール」に変わった
このうち「iDeCoが先」のルールが、2026年1月から「5年」→「10年」に延長されました(すでに施行済みです)。
👉 「60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金」という定番の節税プランは、2026年以降は控除が調整され、節税効果が大幅に下がっています。
ただし後で試算するとおり、退職金800万円規模の私にはほぼ影響がありません。直撃するのは退職金が控除額(勤続30年なら1,500万円)を大きく超える方です。
【試算】退職金800万円×iDeCo500万円、受け取り方でいくら変わる?
「同じ年に受け取るな」という定石が、自分にも当てはまるのか。
前提条件の数字で、受け取りパターン別に実際に計算してみました。
パターン①:60歳に退職金と同じ年に一括受け取り → 税額0円
まず、定石に反して同じ年にまとめて受け取るケースです。
- 収入合計:退職金800万円 + iDeCo一時金500万円 = 1,300万円
- 退職所得控除:同じ年に受け取る場合、勤続期間の重複していない部分を通算して計算
- 私の場合、iDeCo加入期間(45〜60歳)は勤続期間(30〜60歳)に完全に含まれる → 通算しても30年のまま
- 控除額:1,500万円
1,300万円 ≦ 1,500万円 → 課税される退職所得はゼロ。税額0円です。
👉 意外な結論ですが、「同じ年はダメ」というのは合算しても控除に収まらない人の話。退職金800万円規模なら、同年一括がいちばんシンプルで税金もかかりません。
パターン②:60歳に退職金、65歳にiDeCo一時金 → 約7.5万円
次に、「ずらせば得」と思ってiDeCoを65歳まで残すケースです。
- 60歳:退職金800万円を受け取り。控除1,500万円の内800万円分だけ使用 → 税額0円
- 65歳:iDeCo一時金500万円を受け取り。前年以前19年内に退職金があるため控除が調整される
調整の計算はこうなります。
- 退職金800万円は「40万円×20年」に相当 → 勤続30年のうち最初の20年(30〜50歳)を使ったとみなす
- iDeCo加入期間(45〜60歳)のうち、これと重複するのは45〜50歳の5年間
- iDeCoに使える控除:(15年 − 5年)× 40万円 = 400万円
- 課税退職所得:(500万円 − 400万円)× 1/2 = 50万円
- 所得税 約2.6万円 + 住民税 5万円 = 約7.5万円
👉 5年ずらしても税額0円にはならず、むしろ同年一括(0円)より損という結果でした。
パターン③:65歳から年金形式で10年受け取り → 概算125万円
最後に、何も考えずに年金形式(65〜74歳・年50万円×10年)を選んだケースです。
- 65歳からは公的年金 約200万円と合算される
- 公的年金等控除(65歳以上・110万円)はすでに公的年金でほぼ使い切っている
- iDeCoの年50万円はほぼ丸ごと雑所得に上乗せされる
増える負担は年あたりの概算でこうなります。
- 所得税:約2.5万円
- 住民税:約5万円
- 国民健康保険料:約5万円
- 合計:年 約12.5万円 × 10年 = 約125万円
※国民健康保険料率は自治体で異なるため概算です。年金額や他の所得によっても変わります。
👉 一時金なら0円で受け取れたものが、受け取り方ひとつで100万円超の負担に変わります。年金形式の詳しい比較はiDeCoの受け取り方の記事で扱っています。
3パターンの比較
| 受け取り方 | 税・社会保険料の負担(概算) |
|---|---|
| ① 60歳:退職金と同じ年に一時金で一括 | 0円 |
| ② 60歳:退職金 → 65歳:iDeCo一時金 | 約7.5万円 |
| ③ 65歳から年金形式で10年受け取り | 約125万円 |
私の場合の最適解は「60歳で退職金と同じ年に一括」でした。
「数百万円変わる」のは主に、①退職金が控除を大きく超える方(退職金2,000万円超のクラスでは受け取り年の設計だけで百万円単位の差)、②年金形式を漫然と選んでしまうケース、の2つです。退職金800万円規模なら、一時金で受け取る限り大差はつかないというのが今回の発見でした。
NISAの取り崩し順序
課税口座から先に崩す
NISAは運用益が非課税という大きな強みがあります。
できるだけ長く非課税で運用し続けることが、資産を長持ちさせるコツです。
取り崩しの優先順位はこうなります。
- まず: 課税口座(特定口座・一般口座)
- 次に: 成長投資枠(個別株・アクティブファンドなど)
- 最後に: つみたて投資枠(インデックスファンド)
つみたて投資枠は値動きが安定しており、複利の恩恵を長く受けられます。
最後まで温存するのが基本的な考え方です。
取り崩しは「定率4%」を目安に
毎年一定額ではなく、残高の4%を取り崩す「定率方式」が資産延命には有利とされています。
残高が増えれば取り崩し額も増え、減れば取り崩し額も自然に減る。
👉 資産が底をつくリスクを小さくしながら、生活費を確保できる方法です。
まとめ|iDeCo・NISAの出口は「順序」と「タイミング」が全て
- iDeCoの一時金は退職所得控除(勤続30年で1,500万円)を使えば非課税になりやすい
- 退職金800万円×iDeCo500万円なら、同じ年に一括で受け取っても税額0円(合算しても控除に収まるため)
- 5年ずらすとむしろ約7.5万円の負担。最も損なのは65歳以降の年金形式で、概算125万円
- 2026年1月から「10年ルール」施行済み。退職金が控除を大きく超える方は受け取り年の設計が必須
- NISAは課税口座 → 成長投資枠 → つみたて投資枠の順で取り崩す
- 取り崩し方法は残高の4%定率方式が資産を長持ちさせやすい
正直に言うと、iDeCoの「5年ルール」が2026年から「10年ルール」に変わったという話は、調べるまでまったく知りませんでした。
そして今回実際に計算してみて、私の規模では「ずらす」より「同じ年に一括」が正解だったのも意外でした。定石を鵜呑みにせず、自分の退職金と控除額で一度計算してみることをおすすめします。


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