前回の記事「死後事務委任契約は30万円から|独身・子なしが遺言の次に備えること」で、死後の事務を専門家に託すと契約から実行まで50万円〜100万円程度かかることが分かりました。
ただしあの記事では、葬儀・納骨の実費は「別途」と書いただけで中身に踏み込んでいません。
今回はその実費の部分——葬儀と遺骨の行き先にいくらかかるのかを、実額で試算します。
私の場合、実家の墓は兄が管理するので触りません。そして自分の墓は建てないと決めています。
- 独身・子なしで、自分の墓を建てるつもりがない方
- 葬儀にいくら用意しておけばいいのか知りたい方
- 「墓はいらない」と思っているが、遺骨の行き先を決めていない方
という方の参考になればうれしいです。
前提条件
- 55歳、年収約500万円、勤続30年、独身、愛知県在住(賃貸)
- 資産約5,000万円
- 両親はすでに死亡、兄弟姉妹が1人(疎遠)
- 実家の墓は兄が管理。自分の墓は建てない方針
- 通夜・告別式も行わない(直葬)前提
墓を建てないなら、遺骨の行き先は4つ
「墓はいらない」と決めても、遺骨そのものは必ずどこかに行きます。ここを決めておかないと、疎遠な兄に判断が回ってしまいます。
選択肢は大きく4つです。
- 収骨しない(ゼロ葬):火葬後に遺骨を引き取らず、火葬場に委ねる
- 合祀墓・合葬墓:他の遺骨と一緒に埋葬される。永代供養付きで管理費不要のケースが多い
- 散骨:粉状にした遺骨を海などに撒く
- 樹木葬・納骨堂:個別のスペースに一定期間安置し、期間後は合祀されるものが多い
費用は上から順に安くなっています。順に見ていきます。
なおこのほかに、大学へ遺体を提供する「献体」という選択肢もあります。費用の面ではもっとも軽くなりますが、独身・子なしには固有のハードルがあるので、記事の後半で分けて扱います。
葬儀は直葬なら名古屋で23万円から
まず葬儀本体です。
葬儀費用の全国平均は約116万円(2024年公正取引委員会調べ)。形式別の相場は以下の通りです。
- 一般葬:161.3万円
- 家族葬:105.7万円
- 一日葬:87.5万円
- 直葬・火葬式:42.8万円
(出典:お葬式.info)
通夜・告別式を行わず火葬だけを行う「直葬」が、当然もっとも安くなります。名古屋市内の直葬費用は23万円〜が目安とされています(出典:やさしいお葬式)。
火葬料は市民かどうかで14倍違う
名古屋市立斎場の火葬料は、名古屋市民なら大人5,000円です。市外の方は70,000円になります(出典:名古屋市)。
住民票のある自治体の斎場を使えるかどうかで、この部分は大きく変わります。
👉 参列者を呼ぶ葬儀にするか直葬にするかで、80万円以上の差が出ます。 独身・子なしで、そもそも呼ぶ相手が限られるなら、直葬を前提に考えて問題なさそうです。
「葬式もいらない」はどこまで削れるか
直葬は通夜・告別式を行わない形式なので、「葬式をしない」という意味では直葬がすでにその答えです。
ではさらに削って、葬儀社を通さず火葬だけ済ませることはできるのか。調べてみた結論は、独身・子なしの場合は現実的に難しいでした。
理由は3つあります。
- 棺がないと火葬できない:遺体だけを火葬場に運んでも火葬してもらえません。棺に納めることが条件です
- 霊柩車を持っているのは葬儀社:火葬場へ棺を運ぶ霊柩車は基本的に葬儀社が所有しているため、ここは依頼することになります
- 第三者が有償で遺体を搬送するのは事業許可が必要:自家用車で自分の家族を搬送することは違法ではありませんが、許可のない第三者にお金を払って運んでもらうのは違法です(出典:小さなお葬式)
👉 家族が自分で動くなら削れる部分でも、独身・子なしで第三者に託す前提だと、葬儀社を通す以外の選択肢がほぼなくなります。
つまり費用の下限は「葬儀社の直葬プランの最安値+火葬料」です。直葬プランは10万円台から出している業者もありますが地域差が大きく、名古屋市内では23万円〜という調査があるため、この記事では23万円で試算しています。相見積もりを取れば下がる余地はある、という程度に考えておくのが現実的です。
名古屋市は斎場が改修期間中という事情もある
名古屋市の八事斎場は2025年4月から2028年5月まで改修工事期間中です。第二斎場が予約できない場合に市外の火葬場を利用したときは、火葬料金の半額補助を受けられる制度があります(出典:名古屋市)。
市民料金5,000円で使えるかどうかは、亡くなるタイミングと斎場の空き状況にも左右されるということです。
献体なら費用はほぼゼロ。ただし独身には壁がある
「大学に遺体を提供すれば、費用もかからず遺骨の処理も任せられる」という話を聞いたことがあり、調べてみました。これが献体です。
費用はほぼかからない
献体の登録料は基本的に無料です。そしてお別れの場所から大学までの搬送費用と火葬費用は、大学が負担するのが原則です(出典:獨協医科大学)。
ただし「そのまま処分」ではない
献体しても、遺骨は返ってきます。解剖実習の日程を経て、死後1〜3年後に遺族へ返還されるのが原則です。愛知県の献体団体である不老会の場合、火葬は名古屋市の八事霊園で行われます(出典:不老会)。
引き取る人がいない遺骨は、大学が用意した合祀墓や納骨堂に納められるケースがあります。つまり「遺骨の行き先を大学に委ねられる」場合もありますが、大学ごとの対応次第です。
最大のハードルは親族の同意
👉 献体の登録には、配偶者・子・兄弟姉妹など生存している親族の同意が必要で、1人でも反対すると献体はできません。
愛知県・岐阜県美濃地方の不老会では、入会申込に3親等内の成人親族3名以上の署名・押印による同意書が必要とされています(出典:不老会)。
私のように兄が1人だけというケースだと、この人数要件を満たせない可能性が高いです。実際、身寄りのない方や単身者の登録を断る方針の大学が多いのが現状とされています。
ただし救いもあります。死後事務委任契約を結び、献体の事務を確実に引き受ける人がいる場合、その人の同意を親族全員の同意とみなして登録を受け付ける大学もあるとのことです(出典:奥田航平行政書士事務所)。
また、登録希望者が多く受付を一時停止している大学もあるため、思い立ったときに登録できるとは限りません。
なお各団体は献体を「無条件・無報酬の献身的行為」と位置づけています。葬儀費用を節約する手段として考えるものではない、という点は押さえておきたいところです。
遺骨の行き先ごとの費用
次に、遺骨をどうするかです。
収骨しない(ゼロ葬):0円
火葬後に遺骨を引き取らない選択です。全ての遺骨を骨壺に納める「全部収骨」の地域か、一部だけ納める「部分収骨」の地域かで対応が変わり、名古屋市は部分収骨の地域にあたるため、収骨しない選択が取りやすいとされています。名古屋市の八事斎場では収骨なしを依頼でき、追加費用もかからないという情報があります(出典:死後事務支援協会)。
ただしこれは斎場ごとの運用によるので、実際に検討する場合は利用予定の斎場に直接確認する必要があります。
合祀墓:5万〜30万円
他の遺骨とまとめて埋葬される方式です。公営墓地の合葬墓なら都心部でも10万円前後という水準で、永代供養付き・管理費不要のケースが多いのが特徴です(出典:永代供養ナビ)。
散骨:委託なら3万〜10万円
遺骨を2mm以下のパウダー状にして海に撒く海洋散骨は、業者にすべて任せる「委託散骨」が3万〜10万円、遺族が同行する「合同散骨」が10万〜20万円、船を貸し切る「個別散骨」が20万〜50万円が目安です(出典:みんなの海洋散骨)。
散骨を直接禁止する法律はありませんが、厚生労働省が2021年に「散骨に関するガイドライン」を公表しており、粉骨や散布場所についての配慮が求められます。
樹木葬・納骨堂:70万〜80万円台
鎌倉新書の「第17回 お墓の消費者全国実態調査(2026年)」によると、平均購入金額は樹木葬71.7万円、納骨堂81.5万円、一般墓152.0万円でした。購入されたお墓の種類は樹木葬が47.4%で最多です(有効回答1,267件・出典:いいお墓)。
個別のスペースが一定期間確保される分、合祀墓より一桁高くなります。
戻ってくるお金が5万円ある
支払いだけでなく、受け取れるお金もあります。
国民健康保険の加入者が亡くなった場合、葬儀を行った人に葬祭費として5万円が支給されます(名古屋市の場合。自治体によって金額が異なります)。申請期限は葬儀を行った日から2年です(出典:名古屋市)。
会社の健康保険に加入していた場合は、国民健康保険ではなく健康保険から埋葬料として5万円が支給されます。どちらか一方です。
ただしこれは申請しないと出ません。独身・子なしの場合、申請してくれる人がいるかどうかが問題になります。死後事務委任契約の内容にこの申請を含めておくのが確実です。
パターン別の総額を試算
名古屋市民・直葬(23万円)を前提に、遺骨の行き先ごとの総額を出してみます。葬祭費5万円は差し引いています。
⓪ 献体(登録できた場合)
ほぼ0円(搬送費・火葬費用は大学負担。ただし親族の同意が必要で、登録できるとは限らない)
① 直葬+収骨なし
23万円 + 0円 - 5万円 = 18万円
② 直葬+委託散骨
23万円 + 5万円 - 5万円 = 23万円
③ 直葬+合祀墓
23万円 + 10万円 - 5万円 = 28万円
④ 直葬+樹木葬
23万円 + 71.7万円 - 5万円 = 約90万円
👉 墓を建てないなら、葬儀と納骨は30万円弱で収まります。 資産5,000万円に対して0.6%程度です。ここは想像していたよりずっと軽い金額でした。
一番高いのは「手配してもらう費用」
ただし、ここで終わりません。
前回の記事の通り、この手配を専門家に任せる場合、死後事務委任契約の受任者報酬が30万円〜100万円程度かかります。
つまり——
葬儀と納骨の実費28万円 + 死後事務委任の報酬50万円(仮) = 78万円
👉 実費より、手配してもらう費用のほうが高くなります。 直葬+合祀を選んで実費を削っても、独身・子なしだと「誰に頼むか」のコストが残る構造です。
正直に言うと、これが今回一番意外だった点でした。お墓を建てないと決めれば費用は下がると思っていましたが、下がるのは実費だけで、総額は手配コストで決まります。
献体も同じ構造です。実費はほぼ0円になりますが、独身・子なしで登録するには死後事務委任契約の受任者が必要になる可能性が高いため、結局そこの費用は残ります。
なお、永代供養や葬儀は生前に申し込んでおく(生前契約・生前予約)ことができます。ただし生前に申し込んでも、実際に納骨してもらう手配は別問題です。おひとりさまの場合、生前予約と死後事務委任契約をセットにしておかないと、契約したことが実行されないおそれがあります。
まとめ|墓を建てない場合の費用感
- 葬儀は直葬なら名古屋市内で23万円〜。全国平均約116万円との差は大きい
- 名古屋市民の火葬料は大人5,000円(市外は70,000円)
- 遺骨の行き先は、収骨なし0円/散骨3万〜10万円/合祀墓5万〜30万円/樹木葬・納骨堂70万〜80万円台
- 「葬式もいらない」を突き詰めても、棺・霊柩車・搬送の事情から葬儀社を通さない選択は現実的に難しい
- 献体なら搬送費・火葬費用は大学負担でほぼ0円だが、親族の同意(不老会は3親等内の成人3名以上)が壁になる
- 国民健康保険なら葬祭費5万円が支給されるが、申請しないと出ない
- 直葬+合祀なら実費は約28万円。ただし死後事務委任の報酬を足すと80万円前後になる
- 生前予約だけでは実行されないため、死後事務委任契約とセットで考える
自分の墓を建てないと決めたことで、費用の見通しはかなりはっきりしました。次に決めるべきは金額ではなく、「誰に頼むか」のほうだと思っています。
独身・子なしで、お墓や葬儀の費用感を知りたい方の参考になればうれしいです。

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