前回の記事では、お墓を建てないと決めた場合の葬儀と納骨の費用を計算しました。
遺言、死後事務委任、お墓。独身・子なしの終活について、ここまで3本書いてきました。
書き終えてから気づいたことがあります。
これらは全部、死んだあとの話です。
実際に先に来るのは、その手前でした。入院、手術、介護施設への入所。そのとき窓口で必ず聞かれるのが「身元保証人はどなたですか」という質問です。
正直に言うと、私にはこれに答える準備がありません。
今回は、身元保証人がいない場合に何が起きるのか、民間サービスを使うといくらかかるのか、公的な制度でどこまで代替できるのかを調べました。
- 独身で、子どもがいない
- 頼れる親族が兄弟ひとりだけ
- その兄弟とも、いざというときの話をしていない
という方の参考になればうれしいです。
前提条件
この記事は、以下の条件を前提に書いています。
- 年齢:55歳(60歳での退職を想定)
- 年収:約500万円、勤続30年
- 家族構成:独身、子どもなし、兄がひとり
- 居住地:愛知県(賃貸)
- 資産:約5,000万円
身元保証人を求められる3つの場面
身元保証人という言葉は聞いたことがあっても、具体的にどの場面で必要になるかは意外と知られていません。私も今回調べるまで、入院のときくらいだろうと思っていました。
実際には、生活の節目ごとに繰り返し登場します。しかも求められるのは、体調や判断力が落ちて、いちばん頼みごとがしづらくなったタイミングです。
まず、どんな場面で必要になるのかを整理します。
入院・手術のとき
入院時の書類には、ほぼ必ず身元保証人か身元引受人の欄があります。
求められる役割は、大きく3つです。
- 医療費が未払いになったときの支払い
- 手術や治療方針への同意、緊急時の連絡先
- 亡くなったときの遺体・遺品の引き取り
調査によると、病院の約9割が入院時に身元保証人を求めているとされています。
介護施設に入るとき
特別養護老人ホームや有料老人ホームの入所契約でも、身元保証人は必要です。介護施設の9割以上が条件にしているという報告があります。
入院との違いは、契約期間の長さです。数日で終わる入院と違い、施設入所は何年も続きます。
👉 月々の利用料を長期にわたって保証する相手を求められる、と考えたほうが現実に近いです。
賃貸住宅を借りるとき
高齢になってからの引っ越しでも、連帯保証人か保証会社が必要になります。
私の場合、今住んでいる賃貸は親族に連帯保証人を頼みました。保証会社は使っていません。更新のたびに何か言われたこともないので、この点は意識せずに来てしまいました。
ただ、これは55歳の会社員だから通っている話です。70代で無職になってから同じ条件で借りられるとは限りません。
保証人がいないと本当に断られるのか
ここが今回いちばん知りたかった点です。「保証人がいないと入院できない」という話はよく聞きますが、本当にそうなのかを確認しました。
結論から書くと、制度上は断ってはいけないことになっています。ただし現場の運用はそれに追いついていません。
建前と実態がずれている、というのが調べた印象です。
厚生労働省は「拒んではいけない」としている
厚生労働省は、身元保証人がいないことのみを理由に入院を拒むのは医師法に反する、という考え方を通知しています。
法律上、医師には正当な理由がなければ診療を拒めない義務があります。保証人の不在は、その正当な理由には当たらないという整理です。
それでも現場の運用は変わっていない
一方で、実際の入院申込書には保証人欄が残ったままです。窓口で「いません」と答えたときに、どう扱われるかは病院によって差があります。
厚生労働省の通知は病院への周知であって、罰則があるわけではありません。
👉 「断られない権利はあるが、手続きがスムーズに進むとは限らない」というのが実態に近い表現だと思います。
賃貸は2025年10月に法律が変わった
住まいについては、はっきりした前進がありました。
改正住宅セーフティネット法が2025年10月に施行され、国土交通大臣が認定した家賃債務保証業者は、高齢であることなどを理由に保証を原則として拒めなくなりました。緊急連絡先も、個人ではなく法人を指定できるようになっています。
賃貸だけは、制度が単身高齢者のほうに寄ってきた形です。
民間の身元保証サービスは20万〜100万円
親族に頼めない場合の選択肢が、民間の身元保証サービスです。身元保証等高齢者サポート事業、終身サポート事業などとも呼ばれます。
調べてみて驚いたのは、料金体系が事業者ごとにまったく違うことでした。同じサービス名でも、総額が数十万円のところと数百万円のところがあります。
費用の目安を整理します。
| 費目 | 目安 |
|---|---|
| 入会金・契約時の費用 | 数万円〜数十万円 |
| 年会費・月額の管理費 | 契約中は継続して発生 |
| 預託金 | 死後の実費相当額を前払い |
| 身元保証料(終身契約) | 20万〜100万円(単発は5万〜30万円) |
| 都度の実費・報酬 | 利用のたびに加算 |
料金の内訳は入会金・年会費・預託金
料金は、大きく入会金・年会費・預託金の3つで構成されています。
入会金は契約時の一度きり、年会費は契約している間ずっと、預託金は死後の費用にあてるために先に預けるお金です。
さらに、実際に入院の付き添いや手続きを頼むと、都度の実費や報酬が加算されます。
終身契約と単発契約の違い
身元保証料そのものの相場は、終身契約で20万〜100万円、入院1回などの単発契約なら5万〜30万円が目安とされています。
都度払いの費用を除いた総額では、約100万円からという調査結果もあります。
私の資産5,000万円から見れば、100万円は2%です。払えない金額ではありません。ただ、これは死後事務委任契約の費用とは別枠でかかるお金です。
死後事務委任契約は30万円からという記事で書いた費用に、生前分が積み上がる構造になります。
預託金は「預けたお金」であることに注意
預託金は支払いではなく、預けているお金です。
つまり、事業者が経営破綻すれば戻ってこない可能性があります。過去には、全国規模の公益財団法人が破綻して利用者の預託金が返還されなかった事例もありました。
👉 預託金がいくらで、どこに、どう分別して管理されているか。契約前にここだけは確認する必要があります。
2024年に国のガイドラインができた
トラブルが相次いだことを受けて、2024年6月に内閣官房・内閣府・消費者庁などが「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を制定しました。
契約内容や料金の明示、預託金の分別管理、寄附や遺贈を契約の条件にしないことなどが求められています。
ガイドラインに沿った説明をするかどうかが、事業者を選ぶときの現実的な判断材料になりそうです。
公的な制度はどこまで届くか
民間サービスの前に、公的な制度で代わりになるものがないかも調べました。
期待していたのですが、結果は厳しいものでした。身元保証という機能そのものを公的に肩代わりする仕組みは、今のところありません。
それでも使える制度はあるので、整理しておきます。
| 制度・窓口 | 費用の目安 | 身元保証人になれるか |
|---|---|---|
| 日常生活自立支援事業(社会福祉協議会) | 訪問1回1,200円前後+月300円程度 | なれない(金銭管理と福祉サービス利用の援助のみ) |
| 成年後見制度 | 家庭裁判所が個別に決定 | なれない(利益相反にあたるため) |
| 地域包括支援センター | 相談は無料 | なれない(相談と制度案内の窓口) |
| 民間の身元保証サービス | 総額100万円前後 | なれる |
社会福祉協議会の日常生活自立支援事業
各市区町村の社会福祉協議会が行っている事業です。
判断力が落ちてきた人を対象に、福祉サービスの利用手続きや、日常的なお金の管理を手伝ってくれます。費用は1回の訪問で1,200円前後、年会費が月300円程度と安価です。
ただし、身元保証の機能はありません。金銭管理と福祉サービス利用の援助に限られます。
成年後見制度は身元保証人にはなれない
判断力が低下したあとの財産管理や契約行為は、成年後見制度でカバーできます。
しかし、後見人が本人の身元保証人になることはできません。本人の利益を守る立場と、債務を保証する立場が利益相反になるためです。
名古屋市の成年後見あんしんセンターも、この点をはっきり案内しています。
まず地域包括支援センターに聞く
では実際にどこへ相談すればいいのか。答えは地域包括支援センターと社会福祉協議会です。
自治体によっては、身寄りのない人向けの支援事業を独自に持っている場合があります。2026年6月には改正社会福祉法が成立し、身寄りのない人への支援を国の事業として位置づける方向が報じられました。
制度は動いている最中です。民間サービスに100万円を払う前に、住んでいる自治体の窓口で確認する価値はあります。
55歳の今から準備できること
ここまで調べて分かったのは、私自身がまだ何も手を打っていないという事実でした。
遺言の方針は決めました。死後事務委任も調べました。お墓も建てないと決めています。それなのに、そのどれよりも先に来るはずの入院の備えが抜けていました。
今の時点でできることを3つに絞ります。
兄と一度だけ話しておく
兄とは、実家のお墓は兄が管理するという点だけが決まっています。いざというときの連絡や保証について、具体的な話はしていません。
本音を言えば、切り出しにくい話です。
ただ、緊急連絡先に名前を書くだけなら負担は大きくありません。金銭の保証まで頼むのか、連絡先だけにするのか。ここを分けて話せば、相手も答えやすくなるはずです。
費用は資産のどこから出すか決めておく
身元保証サービスを使うなら、100万円前後を見込んでおく必要があります。
ここまでシリーズで調べてきた費用を並べてみます。
| 備えること | 費用の目安 | いつ必要か |
|---|---|---|
| 遺言(自筆証書・法務局保管) | 3,900円(書き直すたびに再度) | 生前に作成 |
| 身元保証 | 20万〜100万円 | 生前・判断力があるうちに契約 |
| 死後事務委任・任意後見 | 30万〜100万円+実行報酬 | 生前に契約 |
| 葬儀・納骨(直葬+合祀墓) | 28万円前後 | 死後に発生 |
60歳時点の資産見込みは6,500万円です。そこから合わせて200万円弱を「手配のための費用」として別に確保しておく、という整理になります。
老後資金のシミュレーションに入れていなかった支出なので、ここは修正が必要だと感じました。
契約は元気なうちにしか結べない
これがいちばん重要な点だと思いました。
身元保証も任意後見も、判断力があるうちにしか契約できません。倒れてから探すことはできない仕組みです。
👉 必要になる時期は選べませんが、契約できる時期は自分で選べます。
よくある質問
身元保証人と身元引受人は何が違いますか
明確な法律上の定義はなく、病院や施設によって使い分けが異なります。実務では、費用の保証を含むのが身元保証人、遺体や遺品の引き取りを指すのが身元引受人として使われることが多いようです。契約書に書かれた役割の中身を確認するのが確実です。
保証人がいないと救急搬送も断られますか
救急医療は別です。緊急時の治療は身元保証人の有無に関係なく行われます。問題になるのは、入院手続きや、その後の支払い・退院調整の段階です。
民間サービスの費用は生前に全額払うのですか
事業者によります。契約時に入会金を払い、年会費を継続し、死後の実費分は預託金として先に預ける形が一般的です。預託金の扱いと返還条件は、契約前に必ず確認してください。
兄弟がいれば身元保証人になってもらえますか
兄弟が引き受けてくれるなら可能です。ただし、自分より先に亡くなる可能性や、高齢になって保証能力を問われる可能性があります。兄弟に頼む場合も、その先の代替案は用意しておいたほうが安全です。
55歳で契約するのは早すぎませんか
身元保証サービスの多くは、契約から利用開始まで期間が空くと年会費が積み上がります。55歳で即契約する必要はないと思います。今やるべきなのは、費用の相場を把握して資金を確保しておくことと、親族と話しておくことです。
まとめ|生前の備えが抜けていた
今回調べて分かったことを整理します。
- 入院・介護施設・賃貸の3場面で身元保証人を求められる。病院の約9割、介護施設の9割以上が条件にしている
- 厚生労働省は保証人の不在だけを理由に入院を拒むのは不適切としているが、現場の運用は追いついていない
- 賃貸は2025年10月施行の改正法で、認定を受けた保証業者は原則として保証を拒めなくなった
- 民間の身元保証サービスは終身契約で20万〜100万円、総額では100万円以上になることもある
- 公的制度に身元保証の機能はない。まずは地域包括支援センターと社会福祉協議会に相談する
- 契約できるのは判断力があるうちだけ
遺言も、死後事務委任も、お墓も、結局は自分がいなくなったあとの話でした。
生きているあいだに直面する問題を後回しにしていた、というのが今回の正直な発見です。
私はまだ業者に相談もしていませんし、社会福祉協議会の窓口にも行っていません。次にやるのは、名古屋市の地域包括支援センターに、身寄りのない人向けの支援があるかを聞いてみることだと思っています。
同じように終活を進めている方は、順番を一度確認してみてください。死後の準備より先に来るのは、たいてい生前のほうです。

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