前回は、身元保証人がいないとどうなるかを調べました。入院や施設入所のときに困る話です。
その流れで、今度はエンディングノートを書いてみようと思いました。口座の一覧、サブスク、スマホのパスワード。書くことは分かっています。
結果から言うと、ほとんど書けませんでした。
しかも、止まった理由が予想と違いました。項目が難しかったからではありません。書こうとするたびに、「これを誰かに頼むことになる」という事実に行き当たって、手が止まったのです。
- 独身・子なしで、終活を何から始めるか迷っている
- エンディングノートを買ったものの、書き進められていない
- パスワードやデジタル資産をどう残すか決めかねている
- 財産を家族以外に渡したいと考えている
という方の参考になればうれしいです。
私の前提
記事の内容は、この前提での話です。
- 年齢:55歳(60歳退職を想定)
- 独身、子どもなし
- 親が健在。法定相続人は親(兄ではない)
- 愛知県在住、住まいは賃貸
- 資産の中心は預金と証券口座
- 親から生前贈与された土地(相続時精算課税制度を利用)を、兄と2分の1ずつ共有している(固定資産税評価額は土地全体で約1,200万円。私の持分は600万円相当)
- 土地の上に建物があるが、空き家。建物は未登記
エンディングノートに法的効力はない
最初に押さえておきたいのが、エンディングノートの立ち位置です。ここを誤解すると、書いた内容が実現しないまま終わります。
私も「遺言書の簡易版」くらいに思っていました。実際は違います。エンディングノートと遺言書は、役割がまったく別のものです。
遺言書との違い
エンディングノートには、法的な効力がありません。
財産の分け方を書いても、遺族がそのとおりにする義務はないということです。形式も自由で、書き方のルールもありません。
一方の遺言書は、民法で決められた形式を満たせば法的効力を持ちます。書式を間違えると無効になる代わりに、有効なら内容が実現します。
| エンディングノート | 遺言書 | |
|---|---|---|
| 法的効力 | なし | あり(形式を満たせば) |
| 書き方のルール | 自由 | 民法で厳格に指定 |
| 書ける内容 | 制限なし | 財産・身分に関する事項が中心 |
| 向いている用途 | 希望や情報の共有 | 財産の行き先の指定 |
それでもエンディングノートが必要な理由
効力がないなら要らないのかというと、そうではありません。
遺言書に書けるのは、財産の行き先など法律で決まった事項が中心です。「どの銀行に口座があるか」「何のサブスクを契約しているか」は、遺言書に書くような内容ではありません。
でも、残された人がいちばん困るのはそこです。
👉 遺言書は「誰に渡すか」を決めるもの。エンディングノートは「どこに何があるか」を伝えるもの。役割が違うので、両方要ります。
独身・子なしでは伝える相手から考える
もうひとつ、独身・子なし特有の事情があります。
家族と同居していれば、口座の存在くらいは何となく伝わっています。通帳がどこにあるかも、だいたい察しがつくはずです。
ひとり暮らしだと、それがありません。私の口座を1つでも知っている人は、いまのところ誰もいません。
つまり、書く内容を考える前に「誰に渡すのか」を決める必要があります。ここが最初のつまずきでした。
最初に止まったのはパスワードの項目
エンディングノートで真っ先に書くべきなのが、スマホとパソコンのパスワードです。これが分からないと、他の情報にたどり着けないからです。
自分の管理状況を書き出してみて、正直まずいと思いました。
スマホは記憶のみ パソコンはスマホの中
私の管理はこうなっていました。
- スマホ(iPhone)のパスコード:記憶しているだけ。どこにも書いていない
- パソコンのパスワード:iPhoneのメモアプリに保存
書き出すまで気づきませんでしたが、これは構造的に問題があります。
鍵が1点に集中している
パソコンの鍵はiPhoneの中にあります。そしてiPhoneの鍵は私の頭の中だけにあります。
iPhoneが開かなければ、パソコンも開きません。
私に何かあった瞬間、デジタル関係はすべて誰も触れなくなる、ということです。鍵をかけた部屋の鍵を、その部屋の中に置いているような状態でした。
しかも独身なので、時間をかけて解除を試してくれる家族もいません。
国民生活センターも注意喚起している
これは個人的な不注意の話ではないようです。
国民生活センターは2024年11月に「デジタル終活」として注意喚起を出しています。挙げられている相談事例は、次のようなものです。
- 故人のネット銀行の手続きができず、どこと契約していたかも分からない
- コード決済サービスの相続手続きに1か月以上かかった
- 故人が契約したサブスクの請求を止めたいが、IDとパスワードが分からない
同センターは対策のひとつとして、万が一のときに遺族がスマホやパソコンのロックを解除できるようにしておくことを挙げています。
なお、契約者が亡くなってもサブスクは自動で解約されません。事業者は契約者の死亡を把握できないためです。誰かが手続きをするまで請求は続きます。
👉 独身・子なしだと、その請求が続いていることに気づく人すらいません。
デジタルで管理してもいい ただし条件がある
ここで疑問が出てきました。市販のエンディングノートは買っていません。そもそも紙でなければいけないのでしょうか。
調べた結果、紙とデジタルのどちらかが正解という話ではありませんでした。分かれ目は別のところにあります。
紙かデジタルかは本質ではない
エンディングノートの目的は、自分が対応できなくなったときに誰かが読むことです。
そう考えると、判断基準はひとつだけです。
👉 自分以外の人が開ける経路が用意してあるか。
私のようにiPhoneのメモに入れているだけの状態は、その経路がないのでだめだ、というだけの話でした。紙が偉いわけではありません。紙でも、置き場所を誰も知らなければ同じです。
iPhoneの故人アカウント管理連絡先
調べていて知ったのですが、iPhoneにはまさにその経路を作る機能があります。故人アカウント管理連絡先という名前の機能です。
設定の場所はここでした。
設定 → 自分の名前 → サインインとセキュリティ → 故人アカウント管理連絡先
iOS 15.2以降で使えます。私が驚いたのは次の点です。
- 家族以外を指定できる。友人でも知人でも構わない
- 指定された相手は、Apple製品もApple IDも持っていなくてよい
- 設定するとアクセスキーが発行される。これを相手に渡しておく
独身・子なしで、家族以外に託したい人間にとっては、条件が合っています。
取り出せるものと取り出せないもの
ただし、何でも引き継げるわけではありません。ここは分かれています。
| 故人アカウント管理連絡先で | |
|---|---|
| 写真・メッセージ・メモ・ファイル・バックアップ | アクセスできる |
| iCloudキーチェーンのパスワード・パスキー・支払い情報 | アクセスできない |
| 購入した映画・音楽・書籍・サブスク | 引き継げない |
私の場合、パソコンのパスワードはメモアプリに入れていました。メモはアクセスできる側なので、結果的に取り出せる置き方だったことになります。
これがiCloudキーチェーンだったら、取り出せませんでした。たまたま助かっただけで、意図した配置ではありません。
日本では戸籍謄本が必要
そしてここに壁があります。
相手がアクセスを申請するには、アクセスキーに加えて死亡を証明する書類が要ります。Appleは日本について、死亡証明書ではなく死亡の記載がある戸籍謄本が必要だと案内しています。
戸籍謄本を請求できるのは、本人・配偶者・直系の親族が中心です。それ以外の人は「正当な理由」が必要になります。
知人が私の戸籍謄本を取れるかどうかは、はっきりしません。
死後事務委任契約の受任者であれば認められる可能性はありますが、自治体の判断による部分があり、断定はできませんでした。ここは実際に窓口で確認するつもりです。
👉 つまり故人アカウント管理連絡先を設定しただけでは完結しません。死後事務委任契約とセットで初めて機能する、という位置づけになります。
設定画面で手が止まった理由
ここまで分かったので、実際に設定してみることにしました。手順も確認済みです。作業自体は5分で終わるはずでした。
結論から言うと、設定できませんでした。
技術ではなく人間関係で止まる
止まったのは、相手を選ぶ画面です。
指定したい相手は決まっていました。兄ではなく、ある知人です。連絡先から選ぶだけで終わるところまで来ていました。
そこで手が止まりました。理由はひとつです。
本人に確認を取らずに一方的に指定するのは、迷惑ではないか。
技術的な問題はゼロでした。画面は開けたし、意味も分かっている。それでも押せませんでした。
家族ではない相手に頼む遠慮
これが家族なら、たぶん押していたと思います。
家族には「いざというときは頼む」と言える空気があります。言わなくても、ある程度は前提になっています。
知人は違います。その人には、その人の生活があります。
私が亡くなった後にAppleに申請して、戸籍謄本を用意して、口座やサブスクの整理をする。それを頼むということの重さが、選択画面の前で急に現実になりました。
正直に言うと、相手が引き受けてくれるかどうかより、「頼んでいいのか」という段階でつまずいているのだと思います。
エンディングノートが終わらない本当の理由
ここで気づいたことがあります。
書けなかった項目を並べてみると、共通点がありました。
- パスワードの置き場所 → 誰かに伝える相手が要る
- 故人アカウント管理連絡先 → 誰かに頼む必要がある
- 財産の行き先 → 誰かに受け取ってもらう
全部、相手のいる項目です。
👉 エンディングノートが書き終わらないのは、項目が難しいからではありませんでした。誰かに頼む前提の項目で止まるからです。
ひとりで完結する項目、たとえば「葬儀は簡素に」「延命治療は希望しない」といった希望は、すぐ書けました。お墓を建てないと決めた話も、自分だけで決められたから決まったのだと思います。
遺産を全部渡したいときの落とし穴
最後に、いちばん相手に関わる項目の話です。
私は財産をすべて、その知人に渡したいと考えています。兄ではありません。兄とは疎遠ではありませんが、実家の墓を管理してもらう以外に、頼むつもりのことがないからです。
ここで気になっていたのが、兄とトラブルになって知人に迷惑がかかるのではないか、という点でした。調べてみると、心配は的外れではありませんでした。しかも土地を持っているぶん、話は少し複雑になります。
「独身・子なしの相続人は兄弟」という思い込み
まず、よく言われる話から確認します。
遺留分とは、一定の相続人に必ず残さなければならない取り分のことです。これを持っているのは配偶者・子・直系尊属で、兄弟姉妹は含まれません。
だから「独身・子なしなら相続人は兄弟姉妹。兄弟に遺留分はないから、全部を他人に渡せる」とよく言われます。私もそう思っていました。遺言書の記事でもそう書いています。
これは私の場合、当てはまりませんでした。
相続人には順位があります。
| 順位 | 誰が相続人になるか |
|---|---|
| 第1順位 | 子・孫 |
| 第2順位 | 親・祖父母(直系尊属) |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 |
先の順位の人が1人でもいれば、後の順位の人は相続人になりません。
私には子どもがいません。ですが親が健在です。つまり第2順位の親が相続人で、兄は相続人になりません。
そして直系尊属である親には、遺留分があります。
👉 直系尊属だけが相続人の場合、遺留分は遺産全体の3分の1です。
「全部を知人に」と遺言に書いても、親が3分の1を請求できる、ということになります。
思い込みが生まれる理由
「独身・子なしの相続人は兄弟姉妹」という話は、間違いではありません。親が亡くなっている場合には正しいからです。
終活を考える年代だと、親はすでにいないことが多い。だから解説記事もその前提で書かれています。私も疑いませんでした。
ただ私のように55歳で親が健在という人は、珍しくないはずです。
👉 同じ「独身・子なし」でも、親が健在かどうかで相続人も遺留分もまったく変わります。 ここを確認しないまま遺言を書くと、想定と違う結果になります。
自分の相続人が誰かは、思い込みではなく順位表で確認したほうがよさそうです。
生前贈与が将来の相続税に戻ってくる
もうひとつ、自分の状況を整理していて思い出したことがあります。
この土地を親から譲り受けたとき、相続時精算課税制度を使いました。累計2,500万円まで贈与税がかからない制度です。当時は「税金がかからないならそれでいい」としか考えていませんでした。
この制度は、名前のとおり相続のときに精算します。
👉 贈与された財産は、贈与した人が亡くなったときに相続財産へ加算して、相続税を計算し直します。
しかも加算される金額は、贈与を受けた時点の価額です。その後に値上がりしても値下がりしても、当時の金額で戻ってきます。
つまりこの土地の持分は、私の財産でありながら、将来の親の相続税の計算にも顔を出します。
「もらって終わり」ではありませんでした。制度を選んだ時点で、将来の相続と結びついていたことになります。
なお、受け取った側が贈与した側より先に亡くなった場合の扱いもあります。ここは条件が細かく、自分で判断できる範囲を超えていたので、専門家に確認するつもりです。
親が亡くなったあとは話が変わる
もうひとつ厄介なのが、この構成は固定されないことです。
いま親が健在なので相続人は親です。親が亡くなれば、相続人は兄に移ります。そのとき遺留分は消えます。
つまり遺言を書いた時点と、実際に相続が起きる時点で、相続人が違う可能性があります。
私が書くべき遺言は、「親が健在なうちに亡くなった場合」と「親より後に亡くなった場合」の両方で成り立つものでなければいけません。ここは自分では判断がつかないので、専門家に相談するつもりです。
ただし、これで安心とはいきませんでした。遺留分とは別のところにも問題がありました。
「全部」と書くと包括遺贈になる
遺留分がなくても、トラブルの経路は別に残っています。そのひとつが遺贈のやり方です。
家族以外に財産を渡すことを遺贈といい、2種類あります。
| 包括遺贈 | 特定遺贈 | |
|---|---|---|
| 書き方 | 「全財産を」「財産の2分の1を」 | 「○○銀行の預金を」 |
| 遺産分割協議 | 他に相続人がいれば参加が必要 | 不要 |
| 債務 | 引き継ぐ | 引き継がない |
「全部渡したい」と素直に書くと、包括遺贈になります。
そして包括遺贈の受遺者は、相続人と同じ権利義務を持つ扱いになります。他に相続人がいる場合、遺産分割協議に参加することになります。
つまり、知人が兄と協議のテーブルにつくということです。私がいちばん避けたかった状況が、いちばん素直な書き方で発生します。
特定遺贈なら協議はいらない
一方、特定遺贈なら受遺者は遺産分割協議に参加しません。債務も引き継ぎません。
知人が兄と顔を合わせずに財産を受け取れる、ということです。
これで解決かと思ったのですが、そう単純ではありませんでした。土地を持っているからです。
土地があると税金の向きが逆になる
私は住まいこそ賃貸ですが、別に土地を持っています。親から生前贈与されたもので、固定資産税評価額は土地全体で約1,200万円です。
不動産が絡むと、包括遺贈と特定遺贈で税金の有利不利が逆転します。
| 包括遺贈 | 特定遺贈 | |
|---|---|---|
| 遺産分割協議 | 参加が必要 | 不要 |
| 不動産取得税 | 非課税 | 課税(評価額の3%) |
| 登録免許税 | 2%(相続人以外) | 2%(相続人以外) |
不動産取得税は、相続で取得した場合は非課税です。包括受遺者は相続人と同じ扱いになるため、こちらも非課税になります。
ところが特定遺贈で相続人以外が取得すると、課税されます。私の持分は2分の1なので、600万円分で計算します。
不動産取得税 600万円 × 3% = 18万円
登録免許税 600万円 × 2% = 12万円
合わせて約30万円を、知人が負担することになります。
つまりこういう構図です。
- 特定遺贈 → 兄との協議は避けられる。かわりに知人が30万円ほど払う
- 包括遺贈 → 税金は12万円で済む。かわりに知人が兄と協議のテーブルにつく
👉 どちらを選んでも、知人に何かを負わせます。きれいな正解はありませんでした。
なお登録免許税は、受け取るのが相続人なら0.4%です。約2万4,000円で済み、不動産取得税もかかりません。同じ持分でも、渡す相手で10倍以上違うということになります。
ここで私は勘違いをしていました。「兄に渡せば相続だから安い」と思っていたのですが、親が健在なうちは兄は相続人ではありません。兄に渡すのも遺贈にあたるので、税率は知人に渡す場合と同じです。
👉 相手が家族かどうかではなく、その人が相続人かどうかで決まります。
共有名義という、もっと大きな問題
ただ、税金の話はまだ軽いほうでした。
この土地は兄と2分の1ずつの共有です。親から譲り受けたときに、そのまま2人の名義にしました。当時は何も考えていませんでした。
自分の持分を知人に遺贈すること自体はできます。共有持分は自由に処分できるからです。
問題はその先です。
👉 土地が「兄と知人の共有」になります。
こうなると、次のことが起きます。
- 売るにも貸すにも、原則として兄と知人の合意が必要になる
- 合意できなければ、共有物分割請求という手続きに進む。最終的には裁判所の判断になる
- 知人からすれば、面識のない相手と不動産を共有させられる
「知人に迷惑をかけたくない」と思って調べ始めたのに、いちばん迷惑な形に行き着きました。しかも兄との関係にも火種を残します。
土地だけ兄に残す案は、最初は「希望を曲げる案」だと思っていました。調べてみると、共有を解消する案でもありました。同じ選択肢の見え方が変わります。
生前に解消する方法もあります。兄の持分を買い取って単独所有にするか、逆に自分の持分を兄に譲るか、土地を売って現金で分けるかです。どれも兄と話し合わないと進みません。
そしてその話し合いを、私はまだしていません。
口座の棚卸しが必要になる理由
話を金融資産のほうに戻します。
特定遺贈は「○○銀行の預金」と特定して書きます。ここで問題が出ます。
特定して書くということは、書き漏らした口座は指定から外れるということです。外れた分は法定相続人、つまり親のところへ行きます。
私は口座もサブスクも、数えたことすらありません。
👉 口座の棚卸しは、面倒な事務作業だと思っていました。実際は、希望どおりに財産を遺すための前提条件でした。
エンディングノートの「口座一覧」の欄は、情報共有のためだけの項目ではなかったわけです。
相続税は2割加算される
もうひとつ、知人にとって現実的な負担があります。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。私の法定相続人は親1人なので、3,600万円になります。
ここで土地の評価額を確認していて、勘違いに気づきました。相続税で使う土地の評価額は、固定資産税評価額ではありません。
土地には複数の価格があります。相続税で使うのは路線価にもとづく評価額で、これは公示価格の約8割が目安です。固定資産税評価額は約7割なので、ずれます。
おおまかな換算はこうなります。
相続税評価額の目安 固定資産税評価額 × 1.14
私の持分は600万円相当なので、
600万円 × 1.14 = 約684万円
この前提で計算し直します。老後シミュレーションでは90歳時点の金融資産を4,800万円と見ているので、土地の持分と合わせた課税価格は約5,484万円です。
課税対象 5,484万円 − 3,600万円 = 約1,884万円
相続税の総額 1,884万円 × 15% − 50万円 = 約233万円
さらに、受け取るのが配偶者・子・親以外の場合は2割加算されます。親は対象外ですが、知人も兄も対象です(兄は相続人ではないので、受け取れば受遺者として加算されます)。
土地の持分を兄に、金融資産を知人に渡す場合で按分すると、こうなります。
- 知人(金融資産4,800万円分) … 約204万円 + 2割加算 = 約245万円
- 兄(土地の持分684万円分) … 約29万円 + 2割加算 = 約35万円
なお、これは遺留分の請求がなかった場合の計算です。親が遺留分を請求すれば、金額も配分も変わります。
これを原則として10か月以内に、現金で納めることになります。
金融資産が中心なので、知人が払えない額ではありません。ただ、財産を渡すというのは、同時に納税義務を渡すことでもあります。頼むときに伏せておいていい話ではないと思いました。
なおこれは概算です。土地の実際の評価額は路線価で計算しますし、特例が使える場合もあります。金額が金額なので、遺言を作るときに税理士に確認するつもりです。
売って現金にする案は、思ったより不利だった
考えていた選択肢は2つでした。
1. 生前に売って現金にしてから、知人に渡す
2. 土地の持分は兄に残し、金融資産を知人に渡す
1番なら不動産取得税も登録免許税もかかりません。現金なので分けるのも簡単ですし、共有も解消できます。ただし共有地なので、売るには兄の同意が要ります。
そして調べていて、勘違いに気づきました。
相続した土地の取得費は、相続した時点の価値ではありません。もとの持ち主が買ったときの価格を引き継ぎます。
私は「相続したときと今で価値が変わっていないから、売っても利益は出ないはず」と思っていました。まったく違いました。
しかもこの土地は、親が祖父から相続したものです。取得費をたどるなら祖父の代まで遡ります。当時の売買契約書が残っている可能性は、ほぼないと思います。
贈与で受け取った場合も、取得費は同じように引き継ぎます。もらった時点の価値ではありません。
取得費が分からない場合、国税庁のルールでは売却額の5%を取得費として計算します。
👉 つまり売却額の95%が、ほぼそのまま課税対象になります。
長期譲渡所得の税率は20.315%なので、ざっくり売却額の2割近くが税金という計算です。持分の実勢価格が仮に800万円台だとすると、150万円前後になります。
「売って現金にしておけば、あとがシンプル」と思っていましたが、シンプルにするための費用がかなり高いことが分かりました。
いまの結論
ここまで整理して、いまの時点ではこう考えています。
👉 土地の持分は共有名義の兄へ。現金と株式は知人へ。
理由は3つです。
- 共有が自然に解消する。知人が見ず知らずの相手と土地を共有する事態を避けられる
- 売却時の譲渡所得税が発生しない。ただし親が健在なうちは兄も相続人ではないため、兄に遺贈する場合の登録免許税は2%です。「家族だから安い」とはなりませんでした
- 兄にも取り分が残る。遺留分の問題ではなく、揉めにくさの問題として
「全部を知人に」という最初の希望からは外れます。それでも、渡したかったのは財産であって、面倒ごとではありません。土地だけは性質が違う、というのが調べて分かったことでした。
ただしこれは今日時点の結論です。兄とはまだ何も話していません。遺言も作っていません。決めたというより、方向が見えただけの段階です。
なお、これはあくまで現時点の前提での概算です。実際に遺言を作るときは、司法書士や弁護士に確認するつもりです。遺言執行者を指定しておくと手続きを進めやすくなることや、自筆証書より公正証書遺言のほうが形式不備で争われにくいことも、あわせて相談する予定です。
よくある質問
エンディングノートについて、調べる過程で疑問に思った点をまとめます。
エンディングノートに法的効力はありますか
ありません。財産の分け方を書いても、そのとおりにする義務は遺族にありません。財産の行き先を確実に指定したい場合は、別に遺言書を作る必要があります。
デジタルで作っても大丈夫ですか
紙かデジタルかは本質ではありません。大事なのは、自分以外の人がそこにアクセスできる経路が用意してあるかどうかです。スマホのメモに書いて誰にも伝えていない状態は、デジタルだからだめなのではなく、経路がないからだめということになります。
故人アカウント管理連絡先は家族以外でも指定できますか
できます。友人や知人でも指定でき、相手がApple製品やApple IDを持っている必要もありません。ただし相手がアクセスを申請する際には、設定時に発行されるアクセスキーと、日本では死亡の記載がある戸籍謄本が必要になります。
相続時精算課税で贈与を受けた財産は、相続のときどうなりますか
贈与した人が亡くなったときに、相続財産へ加算して相続税を計算し直します。加算される金額は相続時の時価ではなく、贈与を受けた時点の価額です。すでに納めた贈与税があれば相続税額から差し引かれます。贈与の時点で完結する制度ではない点に注意が必要です。
独身・子なしなら、相続人は兄弟姉妹ですか
親が亡くなっている場合はそうなります。ただし相続人には順位があり、親や祖父母などの直系尊属は第2順位、兄弟姉妹は第3順位です。先の順位の人が1人でもいれば後の順位の人は相続人になりません。親が健在なら相続人は親で、兄弟姉妹は相続人になりません。
兄弟に遺留分はないと聞きましたが、トラブルにはなりませんか
兄弟姉妹に遺留分がないのは事実です。ただしそれは兄弟姉妹が相続人になる場合の話で、親が健在なら相続人は親になり、直系尊属には遺留分があります。直系尊属だけが相続人の場合、遺留分は遺産全体の3分の1です。また遺留分とは別に、遺言そのものの有効性を争われる可能性も残ります。
相続税は家族以外がもらう場合にもかかりますか
かかります。2割加算の対象外になるのは配偶者・子・親だけで、それ以外の人が受け取ると相続税額が2割加算されます。兄弟姉妹も対象です。基礎控除は法定相続人の数で計算するため、受け取る人が増えても控除額は変わりません。
不動産を家族以外に遺すと税金は変わりますか
変わります。相続人以外が特定遺贈で不動産を取得すると不動産取得税がかかり、包括遺贈なら非課税です。登録免許税も、相続人なら0.4%のところ相続人以外は2%になります。相続税で使う土地の評価額は固定資産税評価額ではなく路線価にもとづくもので、固定資産税評価額のおおよそ1.14倍が目安とされています。
共有名義の土地でも、自分の持分だけ他人に遺せますか
遺せます。共有持分は自分の判断で処分できるためです。ただし遺した結果、残りの共有者と受け取った人が共有することになります。売却や活用には共有者の合意が必要で、まとまらなければ共有物分割請求という手続きに進みます。受け取る側からすれば、面識のない相手と不動産を共有する状態になるため、渡す前に共有を解消しておくかどうかを考える必要があります。
相続した土地を売ると、税金はどう計算されますか
譲渡所得は売却額から取得費と譲渡費用を引いて計算します。相続で取得した土地の取得費は、もとの持ち主が買ったときの価格を引き継ぎます。相続した時点の評価額ではない点に注意が必要です。取得費が分からない場合は売却額の5%として計算されるため、売却額のほとんどが課税対象になります。長期譲渡所得の税率は20.315%です。何代か相続が続いている土地では当時の資料が残っていないことが多く、この扱いになる可能性が高くなります。
エンディングノートはどこで手に入りますか
市販品のほか、自治体が無料で配布している場合があります。名古屋市では千種区が区版のエンディングノートを配布しており、愛知県内では北名古屋市がPDFでの配布も行っています。配布の有無や内容は自治体によって違うため、お住まいの市区町村の窓口に確認するのが確実です。
まとめ|終わっていない終活の記録
エンディングノートを書こうとして、書き終わらなかった話でした。
- エンディングノートに法的効力はない。遺言書とは役割が違い、両方必要になる
- 私のパスワード管理は、鍵が1点に集中していて誰にも開けられない状態だった
- 紙かデジタルかは本質ではない。自分以外が開ける経路があるかどうかが分かれ目
- iPhoneには故人アカウント管理連絡先という機能があり、家族以外も指定できる。ただし日本では戸籍謄本が必要で、死後事務委任とセットで考える必要がある
- 財産を全部渡すと書くと包括遺贈になり、受遺者が遺産分割協議に参加することになる
- 特定遺贈なら協議は不要。ただし口座を特定して書くため、棚卸しが前提になる
- 土地があると有利不利が逆転する。特定遺贈は協議を避けられるが不動産取得税がかかり、包括遺贈はその逆
- 共有名義の持分を他人に遺すと、残った共有者とその人が共有することになる。税金より先にこちらを考える必要がある
- 「独身・子なしの相続人は兄弟姉妹」は、親が亡くなっている場合の話。親が健在なら相続人は親で、直系尊属には遺留分(全体の3分の1)がある
- 相続時精算課税で生前贈与を受けた財産は、贈与した人が亡くなったときに贈与時の価額で相続財産に加算される
- 2割加算の対象外は配偶者・子・親のみ。兄弟姉妹も加算の対象
- 土地の相続税評価額は固定資産税評価額とは別物。目安は約1.14倍
- 相続した土地の取得費は、もとの持ち主が買ったときの価格を引き継ぐ。相続時の価値ではない。資料がなければ売却額の5%扱いになり、税額が大きくなる
- 現時点の結論は「土地の持分は兄へ、現金と株式は知人へ」。共有を解消でき、税金と手続きもいちばん軽い
遺言、死後事務委任、お墓、身元保証と書いてきて、今回で5本目になります。制度はだいぶ分かってきました。
財産の行き先については、調べたことで方向が見えました。渡したかったのは財産であって、面倒ごとではなかったと気づけたのが大きかったと思います。
それでも、設定画面のボタンひとつはまだ押せていません。兄との話し合いもしていません。遺言も作っていません。
調べれば調べるほど、終活で難しいのは制度を理解することではないと感じています。難しいのは、誰かに頼むと決めることのほうです。
知人にはこれから話してみるつもりです。断られるかもしれません。それはそれで、決めるべきことが決まります。
同じところで止まっている方の参考になればうれしいです。


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