前回、エンディングノートが書けなかった話を書きました。止まった理由は項目の難しさではなく、どれも「誰かに頼む前提」だったからです。
遺言も、死後事務委任も、お墓も、方向までは決めてきました。それでも何年も手をつけていないものが1つ残っています。
兄と2分の1ずつ共有している土地と、その上に建っている空き家です。
調べれば調べるほど、放っておくと面倒になることは分かりました。それでも動けていません。理由は法律でも費用でもありませんでした。
- 実家が空き家のまま、兄弟で共有名義になっている
- 「そのうち話そう」と思ったまま何年も経っている
- 親がまだ元気で、介護の話が出ていない
- 独身・子なしで、実家を継ぐかどうかを決めかねている
という方の参考になればうれしいです。
私の前提
記事の内容は、この前提での話です。
- 年齢:55歳(60歳退職を想定)、独身・子どもなし
- 親が健在。法定相続人は親で、兄ではない
- 兄が1人。兄には子どもがいる
- 土地は親から生前贈与(相続時精算課税制度を利用)。兄と2分の1ずつの共有
- 固定資産税評価額は土地全体で約1,200万円。私の持分は600万円相当
- 土地の上に建物があるが空き家。建物は未登記。建築は1981年5月より前
- 住まいは別で、賃貸
名義は子ども、実態は親の家
まず、いまどうなっているのかを整理します。書き出してみて、自分でも中途半端な状態だと気づきました。
土地だけが私と兄の名義になっていて、建物はそのまま。そして税金は親が払っています。手続きが半分で止まっている、という状態です。
土地だけ名義を移して、建物はそのまま
土地は相続時精算課税制度を使って、親から生前贈与を受けました。兄と2分の1ずつです。
ところが建物は未登記のままです。
未登記というのは、法務局に登記されていない状態を指します。つまり登記簿上、その建物は存在していないことになっています。
当時は土地の名義を移すことだけを考えていて、建物のことは誰も話題にしませんでした。
納税通知書は私宛、引き落としは親の口座
もうひとつ中途半端なのが、税金です。
固定資産税の納税通知書は、毎年ハガキで私宛に届きます。 共有名義の場合、共有者の代表者ひとりに通知が送られる仕組みだからです。金額もそれで分かります。
ところが引き落としは親の口座からです。
書類の上では私が代表者で、実際にお金を出しているのは親。名義だけが移って、支払いは元のまま続いてきたことになります。
毎年ハガキが届くたびに目にしているのに、一度も「これ、どうする?」と切り出していません。
誰も住んでいないし、誰も管理していない
建物は空き家です。そして草刈りも換気も、誰もしていません。
兄もしていませんし、私もしていません。親も高齢なので行っていないはずです。
名義は子ども2人、税金は親、管理は誰もいない。書き出すと、かなり宙に浮いた状態でした。
空き家を放置するとどうなるか
ここから、放置した場合に何が起きるかを調べました。思っていたより制度が変わっていて、のんきに構えていられる話ではありませんでした。
いちばん大きいのが、税金が跳ね上がる仕組みです。
管理不全空家という新しい区分
2023年12月、空家等対策特別措置法が改正されました。
もともと「特定空家」という区分はありました。倒壊の危険があるなど、状態がかなり悪い空き家です。
改正で追加されたのが管理不全空家です。
👉 いまは特定空家ほど悪くないが、このまま放置すれば特定空家になりそうな空き家が対象になります。
つまり、危険になる前の段階で指定されるようになりました。
固定資産税が最大6倍になる仕組み
人が住む家が建っている土地には、住宅用地の特例という優遇があります。固定資産税が最大で6分の1になる制度です。
空き家でも建物が建っていれば、この特例は適用されます。だからいま固定資産税が安く済んでいるのは、この特例のおかげです。
ところが管理不全空家や特定空家に指定され、自治体から勧告を受けると、
👉 住宅用地の特例が外れます。
| 区分 | 状態 | 勧告を受けると |
|---|---|---|
| 管理不全空家 | 放置すれば特定空家になりそう | 住宅用地特例が外れる |
| 特定空家 | 倒壊の危険があるなど | 住宅用地特例が外れる |
小規模住宅用地なら最大6倍、一般住宅用地でも最大3倍になる可能性があります。勧告を受けた翌年度の固定資産税から適用されます。
「空き家は壊さないほうが税金が安い」とよく言われますが、それが通用しない範囲が広がったということです。
共有者は連帯して責任を負う
そして共有名義には、独特の重さがあります。
固定資産税は、共有者が連帯して納める義務を負います。代表者に納税通知書が届きますが、支払いの責任は共有者全員にあります。
つまり税金が上がれば、その負担は私と兄の両方にかかります。
管理の責任も同じです。空き家が原因で近隣に被害が出れば、所有者として責任を問われる可能性があります。「兄が何もしていないから」では済みません。
未登記の建物という別の問題
空き家の話とは別に、建物が未登記であることが独立した問題になります。調べるまで、ここまで厄介だとは思っていませんでした。
登記されていない建物は、売ることも、片づけることも、素直には進みません。
登記されていない建物は売れない
不動産の登記簿は、まず表題部という建物の基本情報があって、その上に所有権などが記録される構造になっています。
表題部がなければ、その上も作れません。つまり、
👉 未登記のままでは所有権の移転登記ができません。登記を移せない建物を買う人は、まずいません。
実質的に、売却はほぼ不可能ということになります。
表題登記には義務がある
さらに調べて驚いたのですが、表題登記には義務があります。
建物を新築した場合や、登記のない建物を取得した場合、所有権を取得した日から1か月以内に法務局へ申請しなければなりません。怠った場合は10万円以下の過料と定められています。
実際に過料が科されたという話はあまり聞きません。ただ、義務ではあるという事実は知りませんでした。
解体するにも手続きが要る
では壊せばいいかというと、こちらも単純ではありません。
建物を解体したら滅失登記をします。ところが未登記の建物は、そもそも登記がないので滅失登記のしようがありません。
自治体に家屋を滅失した旨の届出をするなど、別の手続きが必要になります。固定資産税の課税台帳には載っているためです。
👉 未登記というのは「手続きをしていない」だけでなく、「これから何をするにも一手間増える」状態でした。
共有を解消する方法と、その費用
ここまでが放置した場合の話です。では解消するにはどうするか。
方法自体ははっきりしています。問題はどれも兄との話し合いが出発点だということです。
話がまとまるかどうかで費用が10倍変わる
共有を解消する方法は3つあります。土地を物理的に分ける現物分割、一方が買い取って代金を払う代償分割、売って現金で分ける換価分割です。
どれを選ぶにしても、まず話し合いから始まります。まとまらない場合は調停、それでも決まらなければ訴訟です。
| 段階 | 費用の目安 |
|---|---|
| 協議(話し合い) | 数千円〜30万円 |
| 調停 | 30万〜80万円 |
| 訴訟 | 50万〜150万円 |
訴訟まで行くと、弁護士費用が40万〜60万円、不動産鑑定が20万〜30万円、裁判費用が5万円程度という内訳になります。
持分600万円の土地で訴訟は割に合わない
私の持分は、固定資産税評価額で600万円相当です。
そこに100万円を超える訴訟費用をかけるのは、どう考えても合いません。
しかも訴訟になると、裁判所が競売を命じることもあります。競売は市場価格より安くなりやすいので、手元に残る額はさらに減ります。
👉 共有の問題は、揉めた時点で負けが決まっているような構造です。だからこそ、揉める前に話す意味があります。
2027年3月に期限があるものもある
ひとつ期限のある話を付け加えます。
2024年4月から相続登記が義務化されました。相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に登記する義務があり、怠ると10万円以下の過料です。
そして過去の相続も対象で、猶予期限は2027年3月31日です。
私の土地は生前贈与で、すでに名義も移っているので該当しません。ただ、親から相続した実家の名義がそのままになっている方は、期限が迫っています。
どちらが先に亡くなるかで結論が変わる
もうひとつ、調べていて気づいたことがあります。
共有名義の問題は、自分の代で終わらないということです。しかも誰が先に亡くなるかで結論が変わります。
私が先なら、持分は親へ
私には子どもがいません。そして親が健在です。
相続人には順位があり、第1順位が子、第2順位が親などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹です。先の順位の人が1人でもいれば、後の順位の人は相続人になりません。
つまり私が先に亡くなれば、持分は兄ではなく親に行きます。
親と兄の共有になるだけで、共有は解消しません。
兄が先なら、甥姪と共有になる
逆に兄が先に亡くなった場合はどうなるか。
兄の持分は、兄の配偶者と子どもが相続します。私の甥や姪です。
つまり私は、甥姪と土地を共有することになります。
| 私が先に亡くなる | 兄が先に亡くなる | |
|---|---|---|
| 持分の行き先 | 私の持分は親へ | 兄の持分は配偶者・子へ |
| 共有関係 | 親と兄の共有 | 私と甥姪の共有 |
| 共有は解消するか | しない | しない |
どちらの順番でも解消しません。 そして共有者が増えれば、話はまとまりにくくなります。
相続のたびに共有者が増えていく
共有名義の怖いところは、世代が変わるたびに関係者が増えることです。
いまは2人です。次の代では3人かもしれない。そのまた次では、会ったこともない親戚が共有者になっているかもしれません。
そうなると、売ることも貸すことも事実上できなくなります。
👉 いま解消しないということは、解消の難易度を次の世代に押しつけるということでした。
話し合えない本当の理由
ここまで整理して、やるべきことははっきりしています。
兄と話す。それだけです。費用も時間もかかりません。
それを何年もしていません。理由を正直に書きます。
兄は、私が実家に住むと思っている
兄は、私がその土地に住んで、親の老後の面倒をみると思い込んでいます。
はっきり言われたわけではありません。ただ、そういう前提で話が進んでいる空気があります。独身で子どもがいないのは私のほうだから、という流れだと思います。
土地だけ先に名義を移したのも、建物を未登記のまま放置してきたのも、固定資産税を親が払い続けているのも、その前提なら全部つじつまが合います。
誰も決めていないのに、決まったことになっている。そういう状態でした。
土地の話をすると、介護の話になる
だから土地の話は、土地だけで終わりません。
「この土地どうする?」と切り出せば、必ずその先に進みます。じゃあ住むのか、住まないのか。住まないなら親はどうするのか。
👉 土地の話は、入口にすぎません。本題は介護です。
共有名義をどうするかという技術的な問題だと思っていました。違いました。技術的な問題の形をした、別の問題でした。
覚悟が決まっていないから避けている
そして肝心なところですが、私自身まだ決めていません。
実家に戻るのか。親の面倒をみるのか。それとも別の形を考えるのか。どれも決めかねています。
決まっていない状態で話を始めると、その場で答えを出すことになります。あるいは、答えないまま期待だけが固まっていきます。
どちらも面倒です。だからなんとなく避けています。
正直に書くと、これが全部です。制度を調べる時間はあったのに、電話1本かけていません。
避けている間も、状況は動いている
ただ、避けている間に事態が止まってくれるわけではありません。
空き家は傷んでいきます。管理不全空家に指定される可能性は上がります。親は年を取ります。兄の前提は、話さない限り強まっていきます。
👉 何も決めていないのに、決まった方向へ進んでいる。 これがいちばん怖いところでした。
エンディングノートが書けなかったのも、身元保証人の問題に手をつけていないのも、構造は同じです。相手のいる項目で止まる。
ただ今回は、少し違います。頼めないのではなく、頼まれる側として決めていないという話でした。
よくある質問
共有名義の空き家について、調べる過程で出てきた疑問をまとめます。
空き家でも固定資産税は安いままですか
建物が建っていれば住宅用地の特例が適用され、固定資産税は最大6分の1になります。ただし管理不全空家や特定空家に指定されて勧告を受けると特例が外れ、小規模住宅用地なら最大6倍になる可能性があります。勧告を受けた翌年度の固定資産税から適用されます。
管理不全空家と特定空家は何が違いますか
特定空家は倒壊の危険があるなど、すでに状態が悪い空き家です。管理不全空家は2023年12月の法改正で追加された区分で、いまは特定空家ほどではないものの、放置すれば特定空家になるおそれがある空き家を指します。どちらも勧告を受ければ住宅用地特例が外れます。
共有名義の固定資産税は誰が払うのですか
共有者は連帯して納税する義務を負います。納税通知書は代表者に届きますが、支払いの責任は共有者全員にあります。誰か1人が払っていても、他の共有者の義務がなくなるわけではありません。
未登記の建物は売れますか
実質的にほぼ売れません。登記簿は表題部があってはじめて所有権などを記録できる構造のため、表題登記がないと所有権移転登記ができません。買う側は登記を受けられないため、取引が成立しにくくなります。売却するなら先に表題登記をする必要があります。
建物の表題登記に義務はありますか
あります。建物を新築した場合や、登記のない建物を取得した場合、所有権を取得した日から1か月以内に申請する義務があり、怠ると10万円以下の過料と定められています。
共有名義を解消するにはいくらかかりますか
話し合いでまとまれば数千円から30万円程度、調停になると30万〜80万円、訴訟まで進むと50万〜150万円程度が目安とされています。訴訟では弁護士費用に加えて不動産鑑定の費用もかかります。評価額の小さい土地ほど、費用倒れになりやすくなります。
自分が死んだら共有持分はどうなりますか
法定相続人に引き継がれます。相続人には順位があり、子がいなければ親などの直系尊属、直系尊属もいなければ兄弟姉妹の順です。共有者である兄弟に自動で渡るわけではありません。相続のたびに共有者が増える可能性があるため、世代をまたぐほど解消が難しくなります。
相続登記の義務化は空き家にも関係しますか
関係します。2024年4月から相続登記が義務化され、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内の登記が必要です。過去の相続も対象で、猶予期限は2027年3月31日です。実家の名義が亡くなった親のままになっている場合は、期限を確認したほうがよさそうです。
まとめ|法律より先に決めることがある
兄と共有名義の空き家について、調べたことと、動けていない理由を書きました。
- 土地だけ名義が移り、建物は未登記、税金は親が払い、管理は誰もしていない
- 2023年12月の改正で管理不全空家が追加され、勧告を受けると固定資産税が最大6倍になりうる
- 共有者は固定資産税も管理責任も連帯して負う
- 未登記建物は実質的に売却できず、解体するにも別の手続きが要る
- 共有の解消は、揉めると訴訟費用が100万円を超える。評価額600万円の持分では割に合わない
- 私が先でも兄が先でも、共有は解消しない。相続のたびに共有者が増える
- そして私が動けていない理由は、制度でも費用でもなかった
調べている間は、知識が増えていく実感がありました。前に進んでいる気になっていました。
実際には、知識は言い訳の材料になっていたのだと思います。制度を調べている限り、兄に電話しなくて済むからです。
終活シリーズを5本書いてきて、毎回同じところで止まっています。相手のいる項目です。ただ今回は、頼めないのではありませんでした。頼まれる側として、まだ答えを決めていないという話でした。
答えが出てから話すべきか、答えが出ていないうちに話すべきか。それも決めかねています。
ひとつだけ確かなのは、避けている間も状況は動いているということです。空き家は傷み、親は年を取り、話していない前提は固まっていきます。
同じところで止まっている方の参考になればうれしいです。


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