前回の記事では、iDeCoの増額戦略と残り5年の活用法を整理しました。
退職金は一時金で受け取る予定。ではiDeCoはどうすべきか。受け取り時期をまだ決めていない私が、出口戦略を本気で整理してみた。
前回の記事で「iDeCoを増額する前に、出口設計を先に整理すべき」と書いた。その言葉通り、今回は自分ごととして本気で向き合ってみた。退職金は一時金で受け取る予定だが、iDeCoをいつ・どう受け取るかはまだ決めていない。調べれば調べるほど、「受け取り方を間違えると数十万円単位で損をする」ことがわかってきた。
iDeCoの受け取り方は3択ある
まず基本を整理しておく。iDeCoの受け取り方は大きく3つだ。
| 受け取り方 | 課税区分 | 特徴 |
|---|---|---|
| 一時金(一括) | 退職所得 | 退職所得控除が使える。有利なことが多い |
| 年金(分割) | 雑所得 | 公的年金等控除が使える。他の収入と合算 |
| 一時金+年金 | 両方 | 柔軟だが、金融機関によって対応が異なる |
どれが得かは、退職金の金額・受け取り時期・他の収入によって大きく変わる。一概に「一時金が得」とも「年金が得」とも言えないのが正直なところだ。
最大の落とし穴:退職金との「控除枠の競合」
私が最も気をつけたいのがここだ。iDeCoを一時金で受け取ると「退職所得控除」が適用される。これは非常に有利な控除で、勤続年数が長いほど控除額が大きい。私の勤続30年の場合の控除額はこうなる。
800万円 + 70万円 × (30年-20年) = 1,500万円
これだけの控除があればほぼ課税されないケースも多い。ただし——会社の退職金とiDeCoの一時金を同じ年に受け取ると控除枠が合算される。退職金が多い場合、枠を使い切ってiDeCoの一時金に課税が発生する可能性がある。
知っておきたい「19年ルール」
退職金を先に受け取った場合、iDeCoの一時金を受け取る年の「前年以前19年内」に退職金があると、退職所得控除が重複調整されて減ってしまうというルールがある。
つまり60歳で退職金を受け取った私が控除を完全に別枠で使うには、80歳以降まで待つ必要がある。ところが——iDeCoは75歳までに受け取りを開始しなければならない。60歳退職の場合、「完全別枠」は制度上そもそも不可能ということだ。
となると、考えるべきは「別枠を狙う」ことではなく、調整後にどれだけ控除が残るかを試算したうえで、受け取り方を選ぶことになる。
年金受け取りはどうか?
年金受け取りにすると「雑所得」として課税される。公的年金等控除が使えるが、国民年金・厚生年金と合算されるため、65歳以降に受け取ると収入が重なりやすい。逆に言えば、公的年金の受給が始まる前の60〜65歳の空白期間に年金形式で受け取るのは、収入が少ない時期に分散できるという意味で有利なケースもある。
【試算】3パターンで税額を計算してみた
ここまでの理屈を、自分の数字で確かめてみた。前提は、退職金800万円(勤続30年・60歳受け取り)、iDeCoは60歳時点で評価額500万円(45歳から月2万円・15年、元本360万円+運用益)、65歳からの公的年金は約200万円だ。
パターン①:一時金——退職金と同じ年に一括 → 税額0円
合計1,300万円は控除1,500万円(iDeCo加入期間は勤続期間と完全に重複するため、通算しても30年のまま)に収まり、税額は0円。「同じ年に受け取るな」という定説は、合算しても控除に収まらない人の話であって、退職金800万円規模には当てはまらなかった。詳しい計算過程はiDeCoとNISAの出口戦略の記事に書いた。
パターン②:年金形式——60〜64歳の空白期間に5年で受け取り → ほぼ0円
公的年金が始まる前の5年間に、年100万円ずつ受け取るパターン。65歳未満の公的年金等控除は60万円なので、雑所得は年40万円だ。
他に申告する所得がなければ(配当は源泉徴収の申告不要を選べば含まれない)、この40万円は所得税の基礎控除にも住民税の基礎控除(43万円)にも収まる。所得税0円・住民税もほぼ0円。国民健康保険料の軽減判定(所得43万円以下)も維持されるため、保険料も上がらない。
かかるのは給付のたびの事務手数料(1回440円)と口座管理料くらいで、5年間で数千円。実質ほぼ非課税で受け取れるうえ、受け取り待ちの残高は運用も続く。正直、試算する前はここまで優秀だとは思っていなかった。
パターン③:年金形式——65歳以降に10年で受け取り → 約125万円
同じ年金形式でも、65歳以降にずれ込むと様子が一変する。公的年金約200万円と合算され、公的年金等控除(65歳以上・110万円)はすでに公的年金でほぼ使い切っているため、iDeCoの年50万円はほぼ丸ごと雑所得に上乗せされる。
所得税・住民税・国民健康保険料あわせて負担増は年約12.5万円。10年間で約125万円だ(保険料率は自治体により差がある概算)。
| 受け取り方 | 税・社会保険料(概算) |
|---|---|
| ① 一時金:60歳に退職金と同年一括 | 0円 |
| ② 年金形式:60〜64歳の空白期間に5年 | ほぼ0円(手数料数千円) |
| ③ 年金形式:65歳以降に10年 | 約125万円 |
結論はシンプルだった。「一時金か年金か」ではなく、「65歳より前に受け取り終えるかどうか」が本当の分かれ目だ。①と②はどちらも実質非課税で、好みで選べる。避けるべきは③だけ。なお併用(一時金+年金)も検討したが、私の場合は①だけで控除内に収まるため、あえて選ぶ理由がなかった。
私の現時点の考え方
試算を終えて、方向性はかなり固まった。
- 60歳退職時:会社の退職金を一時金で受け取り、退職所得控除をフル活用
- iDeCoは「退職金と同年に一時金(税額0円)」か「60〜64歳の年金形式(ほぼ0円)」の二択。65歳以降には持ち越さない
- 2026年12月の改正後に増額 → 運用を延ばしつつ節税効果を最大化
「積み立てる」ことに集中してきたが、「どう受け取るか」こそが老後資金の本当の勝負だと、今さらながら実感している。
まとめ
iDeCoの出口戦略は、退職金との組み合わせで考えることが必須だ。受け取り方・時期によって課税の大きさが変わるため、早めに試算しておくことをすすめたい。特に退職金を一時金で受け取る予定の人は、iDeCoとの控除枠の競合を必ず確認してほしい。
私自身、試算する前は決めきれずにいたが、答えはほぼ出た。あとは退職金の確定額が見えた時点で再計算して、最終判断するつもりだ。同じ条件の人がファイナンシャルプランナーに相談する前の、たたき台になればうれしい。
次回は「60歳退職後の4年間をどう乗り越えるか——年金受給前の空白期間の家計設計」を書く予定です。
この記事を書いた人:55歳・資産約5000万円・60歳退職を目指す会社員(愛知県在住・独身)。感覚ではなく数字で老後を考えるブログ「55歳から整える資産設計」を運営中。


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